第9章 疑似恋愛

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・ 「…夏希ちゃん?…」 切れた電話をあたしはずっと見つめていた… なんか… 呼吸が荒い気がしたけど疲れてるんじゃないだろうか? 逢いたいなんて言って無理させちゃったかも… お風呂から上がった濡れ髪を乾かしてあたしは夏希ちゃんを待った。 下着を履いた感触が少し違和感を呼ぶ。 夏希ちゃん…びっくりするかも知れない── そう思いながらベットの枕元に私は買ってきたゴムを置いた。 「……やだ…ヤル気満々じゃんあたし…」 小さく呟いていた。 待つって時間は結構長い── 色々と思い直したあたしは初めてこの部屋で夏希ちゃんを“待つ”ってことをしている。 あたしはTVに目を向けた。 放置されながら様々な映像を繰り出している。 その中に時おり出てくる画面の中の恋人…… 藤沢 聖夜── よくみれば、ほんと売れっ子だ。 大手メーカーのCMでどのチャンネルに替えても番組の合間に一度は顔を出す。 CM何本抱えてるんだろう… ぼーっと眺めているとまた夏希ちゃんのCMが流れていた。 「あ、初めて見るやつだ…」 目を向けた画面の中でそれこそ平安の衣に身を包み舞を踊る夏希ちゃんが映っている。 満月の夜を背景に、紅葉の植えられた京の庭でそれはそれは艶やかな表情をしながら踊っていた── 秋から新発売の日本酒のCMだ── 藤沢聖夜という役者の夏希ちゃんを知ろうとしはじめたあたしの目に、夏希ちゃんはほんとに色んな表情を見せ付けてくれる。
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