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「な、なんでもないからっ──」
「……」
そんな…
思いきり何かあったよって顔をされて言われても……
今時、香水の香りがする男なんて沢山いる。
男の人の方が種類を知ってるくらい男のお洒落アイテムとして珍しくないのに──
男の隠し事ってこんな小さな切っ掛けから簡単に暴露されてしまう…
何気に言ったことが引き金となって、夏希ちゃんの猛りはあっという間に萎んでいった──。
「なんでもないならいいよ」
これは嘘。
この時点から女の監視の目がどうしても働いてしまう。
一旦見逃して隙を与えて泳がせる……
夏希ちゃんがいったい何を思って“香水”のこの一言にここまで動揺したのか──
あたしは少しホッとした顔を見せる夏希ちゃんの首に腕を回して誘いを掛けた。
「いい匂いする」
「そ、そう?」
抱き締めていうとまだ少し焦りが見える。
「ちょっと甘ったるくて女の子みたいだいけど…」
「──…っ…」
あたしの腰に回ってきた夏希ちゃんの腕がビクリとなった。
夏希ちゃんはあたしの耳元で大きく唾を飲む。
最近少しわかってきた──
夏希ちゃんはあたしの前では役者じゃない。
ズブの素人だ──
なに一つ飾りたてることなく素のままの姿だけを見せてくれる。。。
・
夏希ちゃん──
それでいいよ…
ずっとそのまま、変わらないでいてね……
あたしの前で演じるようになったらたぶんそれは終わりの時──
偽りの姿を魅せるようになったら二人が終わる時だから。
そんな時がきたら
あたしは直ぐに身を引くから──
「晶さん、」
「……?」
「ちょっと、シャワー借りていい?」
「うん」
夏希ちゃんは浴室に一人で向かっていく。
やっぱり変だ。
監視の脳がそう伝えてくる。
いつもなら絶対に一緒に入ろうって言ってくるのにその一言がない──
お風呂でイチャイチャするのが好きな夏希ちゃんが決まり文句を口にしないから…
「一緒に入る?」
あたしから声を掛けた。
「……いや、…すぐ出てくるから…ベットで待ってて」
振り返って躊躇いがちに言う。
シャワーを済ませた夏希ちゃんは普段しないことを立て続けにしてくれていた。
風呂から出るなり部屋中の明かりを消して回る。
暗くなった部屋で月明かりに慣れてきた目が腰にタオルを巻いた夏希ちゃんを見つけた。
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