第9章 疑似恋愛

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一人でいつもの席に座ってコーヒーを頼んだあたしの元へ春姉はツカツカと着て前の席に座った。 「こにちゃ~!あなたこの席好きね~」 いつものあのテンションだ。 初めて交わす言葉だったけどいつも聞きなれた喋りと顔だった為に違和感もなくあたしは挨拶を返した。 「あら、あなたやっぱり笑うと可愛い~じゃない~?もったいないわよ泣きそうな顔してちゃ!」 直球だった── 泣きそうな顔 やっぱりそんな顔してたんだ── 「泣きたいならあたしの胸かしてあげるわよ~?セットで特注ロールケーキついてくるけど、どする?」 「……っ…食びますっ…」 「食びる?オケ!!」 ぐしぐし泣き出したあたしにここの和らぎロールケーキの味を初めて教えてくれたのは紛れもないこの 43歳 花の独身OL ご家老様の 大和田 春子さんだった── ボロボロに泣くあたしをカウンターからオーナー夫婦とスーツ姿のサラリーマンが見守っている景色が見える。 ・ 春姉はあたしのコーヒーと食べ掛けのケーキを手にすると 「おいで、向こう行こ!」 そういってカウンターに誘導した。 春姉のお喋りに乗せられて、あたしは就活が上手く行かないこと。失恋で宛もなく友達に付いてきたこと、全てをさらけ出して話し、大泣きしながらケーキを食べた。 豪快なあたしの泣きっぷり。オーナー夫婦は笑い、サラリーマンの高田さんはどこか微笑まし気に見ていたのを覚えている。 甘くて美味しくて柔らかいケーキ。 その日は特別にしょっぱい涙の味がした── あの味をあたしは今も忘れない。 後から聞いた話し。 あの日のケーキとコーヒーは春姉が高田さんに払わせたらしい── 思いきり泣いたあたしは何かの箍が外れたように失恋を吹っ切りほんとのコーヒーの味を味わえるようにいつしかなっていた…… 上質なアロマ 心が穏やかだとほんとに美味しくて味わい深い── コーヒーってこんなに色んな味があったのかと… テーブル席からいつしかカウンター席があたしのお気に入りになり、カウンター近くでは挽き立てのコーヒー豆から抽出された煎れたての薫りが直に漂う── いつかはこんな人達が集まって笑い和えるコーヒーショップを開きたい── あたしのこの夢は ここにいる人達との出逢いがあったからこその理想の夢だった──
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