第9章 疑似恋愛

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スタジオでの収録もそろそろ終わりを迎えていた。 朝からずっと出っぱなし。力配分に慣れない舞花はさすがにバテて来ているようだ。 「藍原さん、カメラは回ってるから笑顔でね」 ボソッと耳打ちする。 スタジオでは常に五つのカメラが回っている。素人だと何カメに撮られているのかがわからない。 顔を向けることは出来なくてもどの角度から撮られていても気を抜いた表情は撮られてはいけない。 なんせ、誤魔化しの効かないアップでTVに映るのだから視聴者へのイメージのアップ、ダウンにかなり影響するわけで。 「──ではゲストの藤沢さん藍原さん有り難うごさいました!TVの前の皆さん、再来週の月曜夜10時からスタートの“──光の君~上弦の目眩~もう一つの源氏物語──”宜しくお願いします!よいこは見ないようにね~」 番宣でゲスト出演した番組の司会者が最後にもう一度新ドラマの宣伝をしてくれる。 濡れ場だらけのドラマな為に、番宣にでる度に “よいこは観るな” このフレーズがお決まりになっていた。 一仕事を終えて舞花を送るという楠木さんの車には乗らず、俺は急ぎでタクシーを拾い自宅に直行する。 ・ 家で軽くシャワーを浴びると出掛けるようにラフな服装に着替えて帽子を被った。 「うし、予定どうりっ!」 九時前だ。晶さんのマンションにつく頃にはきっかり予定の時刻になる── 昔から分刻みで動いてたせいか、身体が時間を覚えていた。 ロケ撮影や生番組は収録時間がかなりあやふやだ。だからその都度、自分が周りに合わせて時間配分していく── たまにルーズな奴のせいで狂わされるが、俺は至って努力型の天才。 アホと紙一重の天才とは違うから。 この業界は売れてしまえばアホも天才になれる。 てことは、華が開かなきゃアホはただのアホとして隅に追いやられるだけ。 そしてたとえ華が開いても努力無しのアホはこの世界では短命だ。 拾い上げてくれる奴が居なきゃ瞬く間に消えていく── 売れるまでが勝負ではなく 売れてからが勝負── そこが一発屋で終るか 芸能人になれるかの違いだと思うわけで… 晶さんの所の合鍵をポケットに突っ込む。 時計を確認してエレベーターから出るとマンションの玄関口に佇む舞花を見つけて俺はビビった──
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