ファインダーの向こう

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 昔父が行きつけにしていたことを話すと、店主は嬉しそうに俺のフィルムを受け取り、暇だから、もしよければすぐにでも写真を現像するがどうするかと聞いてきた。  俺にとっては人生初の、それも父の形見で撮影した写真だ。  すぐにでも撮影具合が知りたくて二つ返事手応じると、店主は店の奥へ引っ込んで行った。けれど再び姿を現した時、その顔はあからさまな曇り方をしていた。  よぼと写真がマズかったのか。尋ねる俺に、実は写真におかしなものが映っている。それでも見るなら見せるがどうするかと言ってくる。  もちろん見ると訴えると、店主は俺が撮影した写真を近くのテーブルにずらりと並べた。  総ての写真に黒い影が映り込んでいた。それが指差す方向の風景が次の写真に映っている。  写真は一枚残らず、まるでその人影に誘導されるように、影が記す方を移していた。それに伴い、撮影している俺の位置も変わる。公園の中をあちらこちらへうつろいて、ついに車の行き交う車道へ。  その寸前でフィルム切れを起こし、写真は途絶えた。  もしフィルムが切れずに撮影を続けていたら、きっと俺は車道へ踏み出していただろう。  もしや父親も、ファインダーの向こうにちらついたこの人影に誘われるままに写真を撮り、崖から落ちて帰らぬ人となったのだろうか。 「あのカメラは二度と触らない方がいいよ」  店主にそう諭され、俺は写真の総てを処分してくれるという好意に甘えて手ぶらで帰路についた。  家に帰り、俺は部屋に置いたままのカメラを茫然と見つめた。  あの怪しげなものが映るカメラ。おそらく父親を殺したであろうこのカメラ。  それでも、見つめていると触れたくなる。写真を撮りたくてたまらなくなる。  新しいフィルムはまだそこにある。それをカメラにセットすればまた写真が撮れる。  きっと父親と同じ末路を辿る。それでももう、俺はこのカメラで写真を撮りたい気持ちを抑えられない。  意思を固めるようにファインダーを覗く。その向こうで、俺を誘うように人影が手を振った気がした。 ファインダーの向こう…完
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