ファインダーの向こう

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ファインダーの向こう

 俺の父親は、俺がまだ子供の頃に事故で死んだ。  カメラが趣味で、山に風景写真を撮りに行き、帰らぬ人となったのだ。  その時持っていたカメラは無傷で戻ったが、見ると思い出してしまうと、母親がどこかにしまい込んでしまった。  その品が十数年ぶりに出てきたのだ。  俺はカメラには興味がないが、父親に形見はなんだか手を伸ばしたくなる品で、気づくと俺はカメラのファインダーを覗き込んでいた。  このカメラで色んな物を撮影してみたい。  そんな気持ちがとめどなく湧き、俺はフィルムの有無を確かめると、カメラを持って家の外に出た。  とりあえず近くにな公園に行き、気の向くままにそこいらを撮影してみる。  普段はどうということのない風景が、カメラを通すとまるで別世界のようだ。  夢中で辺りを撮っていた時、あれはとあることに気がついた。  ファインダーを覗くたび、何かが視界を横切るのだ。でもすぐに消えてしまうためそれが何なのか判らない。  シャッターを切れば写真に姿が残るだろうか。  そんな気持ちで写真撮影に没頭していたのだが、ふいにシャッターを切ることができなくなった。  フィルム切れだ。  せっかくいい感じで撮影していたのにと、忌々しい気持ちでカメラを顔から離す。その時ようやく俺は、自分が車道に出かけていることに気がついた。  危ないところだった。どうやらカメラに夢中になりすぎて、周りがまったく見えなくなっていたようだ。  もうフィルムもないのでさすがに帰りは撮影はせず、俺はカメラを持ち帰ると、その足で、父親がよく行っていたカメラ店を訪ねた。  昨今はデジタルが主流なため、昔ながらの現像ができる店は少ない。
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