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「傷ついていた人魚は若者の手厚い看護の甲斐あって次第に回復していった。そしてすっかり元気を取り戻すと、人魚はお礼にと毎日のように近海の海から貝や魚や海草や或いは真珠なんかを取ってきて若者に与えた。そうこうして時が過ぎていくうちに、若者と人魚は互いに惹かれあい恋に落ちていったの」 「へぇ素敵」 「でもね、幸せはそう長く続かなかった」 「えっ?」 「人魚は元々、海の向こうの深いところで暮らしていた生き物だったから、その入り江のように浅い海岸で暮らし続けることは人魚の体には毒だったのさ。人魚はまた徐々に衰弱していった。それを見ていた若者は涙ながらにこう言ったの。 『あなたと別れたくない。ずっと一緒にいたい。でもこのままあなたが衰弱していくのを見続けることは堪えられない。どうか元いた海へお帰りください』と。  そして人魚も涙ながらに言う。 『わかりました。私は一度、元住んでいた海へ戻ります。だけど人間になる方法を探し、きっとここへ戻ってまいります。それまで私のことを待っていてくださいますか?』  若者は黙って頷き、二人は海よりも深い口付けを交わし別れた」 「そんな……」 「それからというもの若者は一人ずっと人魚の帰りを待ち続けた。そしてしばらくして自分の異変に気づく。何年経っても自分が年をとらず若いままでいるということに。そう若者は人魚と暮らしているうちに不老不死になってしまった。だから永い年月が過ぎた今でも若者は生きつづけ、人魚の帰りを待っているという」     
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