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 夏の始まったこの日、私は失恋した。その失恋がまさか幼い頃に祖母がしてくれた、この町に伝わる悲しいおとぎ話の続きだったとは夢にも思ってなかったわけで。 「昔々、遙か遠い海の彼方で暮らしていた人魚の一人が、ある嵐の夜に荒波にのまれ流され、この町の海岸に流れ着いたの。深い傷を負ってしまった人魚は息も絶え絶え動けなくなり、そこに町の若い男が通りかかった。人魚は人間に姿を見られたと怯え震え悲しんだ」 「どうして?」 「昔からね、人魚の肉は不老長寿の薬になるという伝説があって、このままじゃあ殺され食べられてしまうと思ったからさ。それでなくても、物珍しさに捕らえられ見世物にされるかもしれないだろ?」 「そっか、人魚さん可哀想」 「そうだね。だけど気立てのいい若者は、人魚に怯えなくていい旨を伝え諭すと、普段、誰も寄りつかない入り江の洞窟に人魚を連れて行き匿ったの」 「ああ、よかった」     
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