17人が本棚に入れています
本棚に追加
「美織?」
背後から声をかけられ、私は振り向いた。
大きな坂を数歩下りて景色を眺めていた私は、坂の上にいるその人に見下ろされる形になる。
昇りはじめた夕日が照らす、背の高い人影。明るい茶髪が夕日の色に透けている。最初、だれだかわからなかった。
「……勇哉?」
問いかけると、自分から声をかけて来たくせにその人物はやや緊張したような素振りを見せた。一歩だけ坂を下り、改めて口を開く。
「……ひさしぶり、美織」
さっきより一歩分だけ近くなった、二重まぶたの双眸。それでも見下ろされたまま、三年ぶりに会う幼なじみに私も言った。
「ひさしぶり、勇哉」
「いつ、帰ってきたの?」
一緒に座ったベンチは、意外と冷たくなかった。風もそんなに強くない。そのせいでマフラーに顔を埋めてうつむいて、視線を逃すことができない。
「昨日」
「そっか、今春休みか。俺も俺も」
ぎこちなさを消すように、弾んだ声を出す彼に曖昧に微笑む。大学生になってからそんな事ばっかりだが、実感がわかない。自分がその肩書きを名乗るのも、ひさしぶりに会う彼にも同じ月日が流れているのにも。
最初のコメントを投稿しよう!