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そこにいたのは、それまで幾つもの修羅場を潜り抜けてきたであろう歴戦の猛者を思わせる厳めしい顔をした武士――の首を引っ提げた一人の少年だった。
小柄で肉付きの少ないすらっとした細身の体型に、男とは思えぬ程の透き通った綺麗な肌。そして、年相応の幼さを残した中性的な顔立ちから、儂の妻や妹に「可愛い」との評価を受けた少年――“森蘭丸”がそこにいた。
「信長様ッ!」
その蘭丸は、こちらの姿を確認するやいなや、持っていた首をポイと投げ捨てると、安堵した表情を浮かべながら、儂の胸に飛び込んできた。
「ふ、はは! なんと、お前だったか蘭丸! いやぁ、無事でなによりじゃ!」
「ああ……信長様! なんと勿体無きお言葉! 信長様こそご無事で、本当に……本当に、良かった……」
燃え盛る火の中、抱き合う二人。
「うっ、グスッ……」
「これこれ泣くでない」
これぞまさしく、感動の再会というものかのう。
まあこやつがそう簡単くたばるとは思っておらんかったが……うむ、悪くない。
とはいえ、だ。
「蘭よ」
「信長様?」
いつまでも野郎同士(一人は女に見えなくもないが……)で抱き合っている訳にもいくまい。絵的に。
それに、
「とりあえず逃げるとしようぞ」
こんな所でのんびりしとったら二人共焼け死んでしまう。しかも、さっき蘭の奴が投げ捨てたあの首……あれを見るに、敵はもう寺に侵入しておるようであるし。
これは、急がねばなるまい。
「行くぞ! 蘭ッ!」
「はい、信長様!」
そうして儂らは急ぎ、階下へと向かったのであった。
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