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白蝶貝・黒蝶貝
あんた、魔女なんだってな。幼なじみが、泡になって消えちまった。なあに、もとに戻せとは言わねえ。あいつはちっとも、後悔なんかしてねえよ。
人間になんか惚れちまった、ばかなわたしが悪かったんだって。
だけどすごく・・・・・・幸せだったと。俺には、ちっともわかんねえな。
顔が赤いって?日焼けだよ。
日焼けってことに、しておいてくれ。
海と陸じゃ、どうしてこう、心根が違うもんなんだ。
ああ、ばあさんが言う通り俺はあいつに惚れてたよ。
今夜はあいつを泡にしちまった、王子とやらの結婚記念日そうだ。
相手はしたたかな、けものくさい、人間の雌だ。
吹き出物を朝から必死に分厚い化粧で隠して、ドレスとやらで着飾って、菓子をむさぼって、宝石を身につけて、趣味が悪い、高いだけの甘ったるい香水なんざつけて、悦に入っているんだろうよ。
ここに、白蝶貝がやまほど、黒蝶貝もやまほどある。
ガキの頃から、世界じゅうの海を泳いでとってきた、文字通り、俺の宝物だ。全財産だ。
あいつにやろうと思っていたんだ、もちろん求婚するために。
相手がいねえ今じゃ、持っていたって意味はねえさ。
ばあさん、受け取ってくれ。
あいにく俺は声はでかいし、足は鮫と戦ったあとで傷だらけのボロボロさ。
力だけはあるから、家のことは任せて欲しい。
見返りとして受け取ってくれよ、それで、俺に教えてくれ。
皆がこぞって頼る、ばあさんが使える、魔法というやつを。
くそがきには教えるもんかなんて、言い分は聞かねえよ。
泣いてなんかいないさ。
潮の流れがかわって、目が痛むんだ。
頼むよ。ばあさん、教えてくれ。
あいつはいまでも、俺の胸のなかで、にこにこ笑っていやがるんだ。
どうか、聞き入れちゃくれねえか?
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