白蝶貝・黒蝶貝

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

白蝶貝・黒蝶貝

あんた、魔女なんだってな。幼なじみが、泡になって消えちまった。なあに、もとに戻せとは言わねえ。あいつはちっとも、後悔なんかしてねえよ。 人間になんか惚れちまった、ばかなわたしが悪かったんだって。 だけどすごく・・・・・・幸せだったと。俺には、ちっともわかんねえな。 顔が赤いって?日焼けだよ。 日焼けってことに、しておいてくれ。 海と陸じゃ、どうしてこう、心根が違うもんなんだ。 ああ、ばあさんが言う通り俺はあいつに惚れてたよ。 今夜はあいつを泡にしちまった、王子とやらの結婚記念日そうだ。 相手はしたたかな、けものくさい、人間の雌だ。 吹き出物を朝から必死に分厚い化粧で隠して、ドレスとやらで着飾って、菓子をむさぼって、宝石を身につけて、趣味が悪い、高いだけの甘ったるい香水なんざつけて、悦に入っているんだろうよ。 ここに、白蝶貝がやまほど、黒蝶貝もやまほどある。 ガキの頃から、世界じゅうの海を泳いでとってきた、文字通り、俺の宝物だ。全財産だ。 あいつにやろうと思っていたんだ、もちろん求婚するために。 相手がいねえ今じゃ、持っていたって意味はねえさ。 ばあさん、受け取ってくれ。 あいにく俺は声はでかいし、足は鮫と戦ったあとで傷だらけのボロボロさ。 力だけはあるから、家のことは任せて欲しい。 見返りとして受け取ってくれよ、それで、俺に教えてくれ。 皆がこぞって頼る、ばあさんが使える、魔法というやつを。 くそがきには教えるもんかなんて、言い分は聞かねえよ。 泣いてなんかいないさ。 潮の流れがかわって、目が痛むんだ。 頼むよ。ばあさん、教えてくれ。 あいつはいまでも、俺の胸のなかで、にこにこ笑っていやがるんだ。 どうか、聞き入れちゃくれねえか?
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!