陽光の檻

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「関係ないってなんだよ」という言葉が 俺の喉につっかえた。 陽田が幾ら善人でも所詮は赤の他人。 そんな事、当たり前なのに 怒りを覚える自分の理不尽さに苛立つ。 すると、隣の男はいとも容易く 俺の感情をひっくり返す。 「私はただ、 虐待を受けている彼を看過出来ません。 その為には相手方と一旦距離を取るべきものと 烏滸がましくもそう愚考しています」 嵐の様に変化する感情の移ろいに 自分で振り回されるばかりで、 残された手段は 俯いて黙ってる事だけだった。 「なので、貴方のご許可が頂けるのなら 彼を暫く私の方で預かりたいと思っています」 冷たく新しい包帯とガーゼが だんだんと俺の体温に馴染んでいく。 「そんな!そこまでして頂く訳には」 「させて下さい。 彼に命を救われた恩返しとして。 その間、奥様や娘さんとよく話し合って 今後どうされるのか考えて欲しいのです。 もう二度と、彼が傷付かずに済む様に」 俺の体温は太陽の下に晒された様に ジリジリと上昇していく。 おじさんの迷いを乗せた嘆息を 音声として辛うじて拾ったが 俺の視界は隣の男の横顔を チラリと盗み見るので精一杯だった。 沈黙が長い十秒と続いて おじさんの声で終了した。 「彼を引き取った日の事、今でも覚えてます。 両親を亡くした狼君が 周囲の言葉に傷付いて寂しそうにして それがとても可哀想で・・・ でも、自分には彼を引き取る資格など はじめから無かったのでしょうね」 涙を堪えた様なその声に俺は 歓喜の感情を打ち止めて焦燥した。 「それは違う!俺は!・・・俺は」 おばさんの事はともかく、 俺はおじさんの事を嫌った事などない。 仕事であまり家にこそ居なかったが それでも、あの日。 親戚全員に腫れ物扱いされた俺を 家族だと呼んでくれて 自分の家族に迎え入れた事を 恨みに変わりつつあったが それでも、あの場。 俺を引き取ってくれたのが彼でなければ もっと酷かった事は容易に想像できた。 だから、ならば。
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