止まない雪の路を進みながら

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「雪で思い出したのですが 幼い頃、雪達磨を作って 両親と喧嘩したんですよ」 陽田は唐突に幼少の話を再開した。 一瞬、俺は呆気にとられかけたが、 「なんで?」とだけ言葉を返した。 「泥が付いて不出来だったのですが、 両親に見せたい為に冷蔵庫に入れたんです。 それが溶けて、原型無くなって 冷蔵庫を汚してしまったので 仕事で疲れていた母に怒られました」 陽田にそんな幼気な過去があった事自体が驚きで 陽田の幼い姿が上手く想像出来ずに ただ陽田が吐露するエピソードを聞いていた。 「父は私達の喧嘩の内容が あまりに下らなかったからか 仲裁する気も起こらなかったようで、 そんな父に母がますます腹を立ててしまい、 私もムキになって家出をしたものです。 ほんの一分ですが」 「ぶふっ、短っ。 それ、家出とは言わねぇよ」 真剣に聞いていた分、 話の終止が笑いのツボを刺激して 思わず吹き出した俺。 陽田は眼鏡越しの あの柔らかい笑顔を俺に向けた。 「喧嘩したのが、雪の夜だったので 勢いで飛び出したものの、寒さには勝てず。 泣きながら家に帰って、 雪達磨をプレゼントしようとした事を キチンと説明したら 母は謝ってくれましたし、私も反省したんです」 「そういう意味では、俺の方が根性あるよな」 「この場合は仲直りまでがゴールなんですから 調子に乗らない事です」 仲直り、その単語は霞に似て 更に終わりの無い道にも似ている。 俺とおばさんのことを指してるのだろう。 正直、可能な様には思えない。 「そもそも子供を育てる事自体が とても大変で覚悟が要る物です。 上手く行かず、自分を責める例も 決して少なくありません。 君が、それを分かってあげなさい。 その為なら、私が出来る限り協力しますよ」 「・・・・・」 隣と自分の足元から 雪が潰れる音を聞き流していれば 駅のホームがもう目の前に見えていた。 まだ雪は止まない。 俺達の足跡を消していく雪が憎い。
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