陽光の檻

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俺達は揃って伊桐宅の主人の許可を得て 家の玄関先まで迎え入れられた。 伊桐の主人であり、親代わりであるおじさんは しきりに陽田へ感謝の言葉を贈る。 陽田は平然とした表情で 繰り返して謙り、土産物を彼に渡した。 おばさんと義妹の姿は見えない。 「狼君、帰って来てくれて本当に良かった。 その包帯はどうしたんだい?」 そう指摘されて俺は咄嗟に 左手をズボンの前ポケットに突っ込んで隠した。 「・・・別に」 「喧嘩かい?それとも何か事故に?」 「いえ、彼は私の命の恩人なんですよ」 その左手首を陽田の手で 強引にポケットから抜き出され おじさんによく見えるように突き出された。 「え?」 「詳しい経緯は省きますが 私への恋心を拗らせた女性に 刃物を持って襲いかかられましてね。 彼はそれを止めようと怪我をしたんですよ」 「おい、離せっての! 余計な事言うんじゃねぇよ」 陽田の手を振り払って 頬が熱くなるのを感じた。 命の恩人という表現は的確ではない為か 胸の内を優しく擽られてるように感じる。 「そうだったのですか、 それは大変な思いを・・・ あぁ!どうぞ中へ」 「では、お邪魔させて頂きます」 陽田は流麗な動作で靴を脱いで 脱いだ靴の向きを変えて靴箱と対面の壁に 一人分のスペース空けて置いたので 俺も倣ってその空いた所に靴を置いた。 「狼君、陽田さんにちゃんと 看病のお礼は言ったのかい?」 「いえ、私は看護師として 当然の事をしただけなので」 居間に行くまでの数秒。 家の中が静か過ぎる。 上の階からも足音すら聞こえない。 「・・・おばさんは?」 「え?ああ・・・今は、居ないよ」 居間に到着してキッチンに目を配って見たが そこにもおばさんの姿はない。 おじさんは俯いて暗い表情を隠す。 「おや、そうなのですか? 奥様とも話し合うべき事なのですから 日を改めてお伺い」 「あ、いえ、家内は、その・・・ 娘を連れて実家に帰ってしまって・・・」 逃げやがった。 その事実に胸が軽くなったと同時に 焦げ付く様な怒りが腹の底から湧き上がった。 「それはタイミングが悪かったですね。 ですが、良いのですか?」 「・・・はい、家内は良いんです。 どうぞ、お掛け下さい」 陽田は釈然としない気持ちを目で訴えながら おじさんに促されてソファーに腰を下ろした。
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