陽光の檻

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「奥様はいつ戻られるかご存知ですか?」 「・・・さぁ、分かりません」 俺は二人用の長ソファーに 陽田の隣に腰を下ろして 一人用のソファーの前で立つおじさんを見ていた。 「狼君を保護してくれて、 本当に感謝しています。 ご迷惑をお掛けして、申し訳ない」 また深く陽田に頭を下げるおじさんに 陽田は軽く頭を下げ返す。 「いえ、ですから迷惑という事はありません。 今後も協力を惜しまないつもりです」 「と、言いますと?」 やっと一人用のソファーに 腰を下ろしたおじさんは 陽田から受け取った土産を ガラスのローテーブルの上に置く。 「・・・彼を看護して気付いたのですが 彼の身体には複数の痣が」 「っ!やめろ」 陽田が言わんとしてる事にやっと気づいて 俺はその口を背後から両手で塞いだ。 俺は陽田にだけ聞こえるように 耳元で「おじさんは何も知らない」と伝えた。 陽田は俺の両手を自分の左手で一纏めにして 口元から外しておじさんを真っ直ぐ見て言った。 「虐待されていた形跡があります」 「テメッ!どういうつもり、痛っ」 陽田の左手の中から逃れようと動かしたら 左の掌の傷が疼いて包帯を濡れるのが分かった。 「失礼、傷口が開いた様です。 少々お待ちを」 陽田が慣れた手つきで包帯を解いて 懐に入れていたらしい簡易救急セットから 新しいガーゼと包帯を取り出した。 「・・・」 おじさんは何も言わずに俺達の様子を見ていた。 その表情は穏やかで悲しい。 俺はそれで察しが着いた。 「・・・家内は悪くありません。 全て任せきりにしていた自分が悪いんです」 「いえ、誤解しないで下さい。 私は決して奥様を責めたいのではありません。 無論、貴方を責めるつもりもない。 誰に非があるかなど 私には関係ありませんので」 陽田の言葉におじさんは驚愕した。 俺も背筋が尖る様な苛立ちを覚えた。
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