カーン家 1

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 「父さん、玄関の戸が壊れてよ」  暖炉の上に、冷え切った兄を温めるための湯を用意していたセウランである。  何事かと二階から降りて来たピタを振り返りもせず、冷たい調子で言った。  「どうしてお前が戸を開かない」とピタは言った。可愛くない娘である。  しゅーと沸騰した湯気をあげる薬缶を取り上げながら、セウランは淡々と答えた。  「怖くて無理よ、女ですもの、父さん」  どんどどん、ばんばん、げし、げしげし。  早く開けて、この子冷たくなってる、ついでにあたしも寒くて凍えてる、ねえ、おい、そこに人がいるの分かってんだよ、うわあ白目剥いてる、お願いお願い早く開けてくださいっ。  丑の刻。真夜中。  ピタは溜息をついた。
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