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ぼんやりと天井を眺めていると、視界の端に人が過った。
華奢で小柄な体に、赤い前掛けを被り、薬師の衣を纏って動いている。
優雅に滑るように、部屋の中を移動している――母さんだ――レイアは未だ醒めない頭で、そんなふうに思った。
母は魔薬士ではなかった。
しかし、薬師としてはそれなりの腕だったと聞いている。レイアの記憶に残る母は、こんなふうに白い衣に赤い前掛けを被り、すり鉢を持って作業していた。耳の横の髪の毛を長く伸ばし、うなじの切りあげる髪型は、薬師の女性が好むものだ。
女性らしい髪の長さと、煩わしい後ろ髪の処理を同時に叶える画期的な髪型。
セウランもいつの頃からか、その髪型になった。
セウラン――徐々に目が醒めてくる――視界の中の母は、優雅に滑るように動いているようで、実はてきぱきと直線的に動作していた。
かちゃかちゃと器が鳴る音。
粥の香り。
かちゃんと音を立てて、寝台の側に盆が置かれた。
母ではない。セウランが、見下ろしている。
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