カーン家 2

4/13
前へ
/122ページ
次へ
 「あーん」  丸椅子を引き寄せて、セウランが言った。  もうそのつもりで、熱い器を左手に持ち、右手に匙を持っている。あーん。兄さん、あーん。  レイアは首を起こした姿勢で、口をへの字にした。  セウラン18歳。  薬師の女性の独特な髪型をしているので、より一層白いうなじが輝く。  華奢で小柄な体型なので、一見、もっと幼いように見えるが、実は年齢より遙かに育っている。  子供を五人くらい産んだおばさんのような、太い神経をしている――と、レイアは心の中で、妹を評している。  セウランは頭脳は明晰である。その上、反射神経も素晴らしい。生まれついて活発にできている。  魔薬士というものは、兵法と薬学の二つを請け負うものだ。兵法を学ぶ上で、武芸の心得もある程度は必要になる。  セウランは、こう見えて容赦がない。  この女に刃物を持たせてはならないと、幼馴染のタカークは言っている。  「解剖実験の蛙でもさばくように、人を殺るぜあいつは」  可愛い顔して、あの目は猛禽の目だよ。お前が昼間のフクロウなら、あいつは獲物を見つけたハゲタカだ。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加