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カーン家は、代々、サイ国の王家専属魔薬士を担っている。
群雄割拠に時代では、薬師として王家に仕えていた。まずは兵法ありきの多くの魔薬士とは違い、カーン家の場合は、薬学が最初にあった。
名家であるが、敷居が非常に低い。
「もともとカーン家は薬師であった。人を診る仕事が本業であるから、気取ってなんになる」
というのが、現カーン家当主、ピタの言い分だ。
ピタは齢56歳、極端なやせぎすで、白髪交じりの髪を上でひっつめにしている。髪型のおかげで、頬骨の出た、目の鋭い容貌が余計に恐ろし気に見える。
妻ラウランは子らが幼い頃に亡くなった。病である。
ラウランの病は、急性のものだった。
突然発症し、手当てが後手に回っている間に、あっけなく死亡した。
もし発症した時、ピタが在宅ならば術で間に合わせることができたはずである。
折悪しく、ピタはその時、トウ国との国境のごたごたのために、軍部と連れだって、長らく家を離れていた。
トウ国とサイ国は、敵対しているというわけでもないが、友好であると言いきれるわけでもない、微妙な間にある。
トウ国もサイ国も、二代目の国王を掲げている。二人とも壮年であり、幼い頃に群雄割拠の壮絶さを目の当たりにしていた。似たような年齢である。
いずれ、争いが起きるだろう。
だが、それは今であってはならない。
魔薬士の意思は常にそうだ。
この、今を護る。それに尽きる。
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