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国の平和の今を護っている間に、ピタは妻を失った。
残されたのは、当時6つだった息子のレイアと、2歳になりたての娘セウランである。
この二人を男手一つで育てて来たピタは、お国の偉い魔薬士というより、肝っ玉母さんの空気を醸し出している。鶏ガラのように痩せた背中からは、今晩の夕食の香りが漂うようだ。
国の大事でもない限り、ピタは自宅で薬師を営んでいたので、一般人からは、「割烹着のお医者さん」と呼ばれていた。
白衣の薬師服の上に赤い割烹着をつけ、娘のセウランをおんぶしながら診療していた。
その側には、もやしのように青白いレイアが控えており、手伝いながら薬師を学んでいたものである。
ピタにとって、妻を亡くしてからの15年は、無我夢中の日々であった。
幸せではなかったわけではない。だが、本来妻、母が担うべき位置を、男がどんなに頑張っても埋めきれるものではないのだ。
なので、ピタはトウ国に対しては――意識的ではないが――微妙な思いを抱いているのだった。
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