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さて、初春の夜更け、そろそろ寝ようとレイアは思った。
蝋燭を持って薬房を出て鍵をかけ、外気の鋭さに思わず身をすくめた。
こんもりとした庭木は黒く巨大な影となり、明るい三日月が黒い梢から覗いている。
庭のあちこちには溶け残りの雪が残っていた。
早く寝床に行こう。
レイアは白い息をあげながら歩く。
ずびずばと洟が垂れかける。このままいつまでも外気に触れていては、間違いなく熱を出す。
自分の体質はよく分かっていた――なのに、寒い夜更けに薬房に籠るのが、この男たる由縁であった。
薬房から自宅まで、ほんの数歩。
ひょろ長い足で進み、玄関に手をかけた時、がさと音がして、レイアは振り向いた。
そして、腫れぼったいまぶたを目いっぱい開いて――ちょっと君、やだ、なに失神してるの、頼むからしっかりしてよ――その場で卒倒したのだった。
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