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ひ弱いレイアが振り向いて見たもの。
それは、音もなく背後に忍び寄っていた、旅の女であった。
恰幅が良いので、夜目には男性に見えたのかもしれない。
「出た」
と、呟いてレイアは静かに気を失い、その痩せた背中を女は片手で受け止めたのだった。
白い息が荒っぽく夜空に上る。
苛立つ旅の女の、だみだみとした大声が、カーン屋敷にとどろいた。
「ちょっとあんた勘弁してよっ、ねえっ、宿に困ってるのよっ、お願いよおっ」
どどん、どんどどん。
狂ったように玄関の扉が叩かれる。
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