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プロローグ
陽が昇る。
けれど前日とは打って変わって届く光に力は無く、温もりを与えてはくれない。
太陽はオレンジ色に滲んだ光の塊りでしかなく、東の空を大きく染めている。
太陽によりも一時間ほど前に昇ってきた銀色に輝く星は、太陽の右30度ほどの位置にある。
そこから数本の光の筋が螺旋を描ながら広がり薄れていく。
星は螺旋とキラキラとした光のグラデーションで包まれていた。
空全体も、大気圏外に広がるダストの微かにきらめく銀の光にあふれている。
西の空は青味がかり、北の空はターコイズグリーンに染まっている。
様々なイオンと励起した二原子炭素の色だ。
明るくなっていく空を、白い尾をひいた明るい流星が引き裂いていく。
僕たちの世界は、この後、どのように変わるだろうか。
それとも変化はないのだろうか。
父から引き継いだこの小さな観測所で、
「今日は僕たちにとって、いや、世界中の人々にとって特別な一日になるはずだ」
明るくなった空を眺めながら、僕はそんなことを考えていた。
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