雪嵐の魔王

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 俺としては、15歳の女の子の妄想にしても度を越していると思い、案外に信じていなかったのだが。彼女が言っていたのは何らかの比喩ってものなのだろう。俺のようにあまり頭の良くない男に状況をわからせるために、彼女なりに考えてのこと。  しかし、いつしか俺はこの”雪幻魔”の妄想の中に入っていた。龍といえば火の化け物のように思われるが、俺にはこの雪嵐、エドメガロポリスんに居るのは”雪龍”だったのだ。  なんということだ。俺は、最初から敵の腹の中にでも居るようなものだったのである。それを一ヶ月も探し回るとは、なんとも”悪漢ウルフ”も焼きが回ったものだ。  しかし、それがわかれば、俺にだって遣りようがある。”どうやりようがあるのか”と思わないでもないが。俺の体の中で回りだしたダイナモが、確信しているのだ。こういう場合、俺はこのダイナモの思うままに任せるのが最善の道だと確信している。  「いいだろう、雪龍!犬神明が、ここに来たぞ!」俺は、ビルとビルの間の広い雪道のど真ん中に立って咆哮した。  俺は、手に鞘に入ったままの日本刀を持っていた。百貨店だったビルの骨董屋に飾られていた中で一番それらしいのを拝借してきたのだ。観賞用だろうから殺傷に向かないと思うだろうが、鞘ごと俺の力で殴られれば、無事では済むまい。  もしむずかしければ、俺の懇意にしている・・敵対も、懇意といえれば、だが・・の暴力団の本部をあされば、武器弾薬には事欠かないのはわかっている。駐留米軍からの横長し品は、下手な過激派学生とかより内戦向けの装備となっている。  ぐあああ!  雪龍が吼えた。”あの時は、火龍だったのにな”俺は、自分がなんとなくそう考えているのを感じながら、刀を上段に構えて雪の中を走った。  雪嵐は、その意図とは別に、今の俺にとっては、”やつ”の巣までのただの回廊だった。手品の種さえわかってしまえば、それを破るのは容易な道理。なるほど。”やつ”はそれなりの能力者だが、その半分は”張ったり”だった。  この寒冷嵐をたくみに先読みして、あたかも己の術のように見せかける。”やつ”に挑んだベアトリス王女のエスパー戦士は、無用に”やつ”の能力を恐れ、最初から及び腰で、己の能力の実力を発揮できない心理状態になっていたのだ。それでは、不利なのが、いっそう不利になるだけではないか。それで、敗れていったのだ。
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