雪嵐の魔王

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 おっと、話を急いだな。俺がラッキーセブンを吸えないのは、俺がガンを恐れて禁煙をしたからではない。自販機があるとしても、何十mもの厚さの雪の層の底になるからだ。 本格的な氷河期なんじゃないか。どれほどの時間がそうなるのか。このブリザードも、一帯何年続くのか、誰もわからない。  ”雪の夜”といえばロマンチックな話だが、すでにこの”雪の夜”が何日続いているか、核シェルターに逃げ込んだ裕福な連中はまだしも、この雪嵐の中でもまだ生きていることのできた人間がいたとしても、それはわかるまい。実際のところ、昼夜も関係ない、大気中に吹き上がった膨大な塵が、この世界中に分厚い雲を作ったからだ。  俺が、それなりに時期を知ることができるのは、俺の守護神の”月”が、その分厚い雲の上でも存在しているのがわかるからだ。  ああ、すまん、自己紹介が遅れたな。俺の名は、犬神明。いまさら職業というのもなんだが、フリーランスのルポライターをやっている・・いや、やっていた、だな。こんな状態のエドメガロポリスでは、お得意先の出版社など軒並み閉店状態だからだ。賢い人間は、早々にこの町を見捨てて南に向かった。核シェルターに逃げ込むのでなければ、そうするしかあるまい。はたして、エドメガロポリスの南が安全なのか否か、今の俺には判断がつかない。掛け値なく、彼らの無事を祈るのみだ。  その前に、俺は、やっておくことがある。俺は、そのためにこの冷凍庫の中のような町に居残っているのである。いかに俺がタフだからって、この寒さの中で冷凍マグロの親戚になれば、いかに春が来ても生き返る自信がないからだ。  さっさとこの案件を片付けて、俺も南に向かいたいものだ。そうすれば、ラッキーセブンにありつくことができるかもしれない。俺がニコチン中毒なのはまず、間違いない。どんなにあのガツンとくるタバコをチェーンスモークをしても、ガンなんかにならないのだ。しかし、これだけ吸えないと精神上不機嫌この上ないことは言うまでもないだろう。こんなときに俺に出会ったやつが居たら、かなり不健康な目にあうことを覚悟してもらわねばならない。そして、まさに、その不機嫌さこそが、今の俺の原動力だった。
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