雪嵐の魔王

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 あの方のことを思うだけで、闘志が沸いてくる。そんな俺をロリコンという奴が居たら、ぶん殴る。あの方は、若いのに、この世界のために、この世界を救うためにいるのだからな。あるいは、そんな青臭いことは、あの若さだからできることなのだろうが。しかし、あの若さにだまされてはいけない。俺のにらむに、彼女の背後には、それこそ何千年もの間、人間の中に脈打ってきたすばらしいものの全てが存在しているに違いない。  彼女は、天才なのだ。人間よりも神様に近い。無神論者の俺が言うのだから間違いないだろう。  彼女は、地球エスパー戦団のリーダーだと言った。トランシルバニア皇国の王女ベアトリス。俺の知る限り、彼女はわずか15歳であったのだ。金髪の超絶美少女。  しかし、俺の目の前に現れた彼女は10名ほどの従者を引き連れただけだった。その10名は、世界でも有数のエスパー戦士だったのだが。しかし・・  「敗残の兵です」少女は、さびしそうに笑った。結局、どんなに精鋭を集めたところで”やつ”の暴挙を阻止できなかったのだから、なにを言っても負けは負け、なのだ。  今回富士山を襲った衝撃は、世界を駆け巡り、火山脈、近くを激しく揺り動かし全ての火山、そして地震の巣をたたき起こすに違いないからだった。最悪の場合、そしてその可能性があまりに確定的なのだが、人類は氷河の下敷きになって滅亡する。彼女は、起死回生の秘策の実現のために、これから仲間と共に南に向かうのだという。俺も一緒に来ないかといわれたが、俺は彼女達が束になっても適わなかった”やつ”に挑む道を選び、そして、ここに残ったのである。  ベアトリス皇女は、その代わりといっては何だが、この極寒のエドメガロポリスで生き残った香川千波という娘を連れて行った。あの富士大災害の際に大きく傷を負ったのだが、それでもそれまで生き延びたというだけで、傑物だった。あらためて言うまでもないだろうが、彼女もかなりの実力のエスパーだったのだ。富士大災害のときにその潜在能力に目覚め、厳冬の環境が彼女を鍛え上げたといえるだろう。しかし、彼女の体に残った醜い傷以上に心が根性がひね曲がっていた。その意味では、天使よりもはるかに悪魔に近い女だった。実際、おれも敬遠したくなる悪女だった。まだエド大学の学生だったのだが、海千山千のやり手婆より性悪だったのである。
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