雪嵐の魔王

9/11
前へ
/11ページ
次へ
 それでもベアトリス王女には、何か考えがあるようだ。周囲のエスパー戦士の制止を振り切って、彼女を仲間に加えたのである。敗残の戦団、食料も尽きかけた中で、あんな性悪女を仲間に引き入れるのは軍団の野垂れ死にを決定するのと同義としか考えようがなかったのは無理はない。  俺がそんなベアトリス王女一行と袂を分かって見送ったのは、もう一月ほど前のことになる。無事ならば、もう国外に逃げ出していることだろう。確かめようもないが、生き延びていて欲しいものだ。  彼女達が束になっても勝てなかった相手。俺でなんとかなるとも思えないが、座して死を待つなんて、俺の性分には合わなかった。俺という人間は、そういう物騒な戦士の気質なのだ。俺は、誰にともなく狼の笑いをしていた。ほほを上げると、人並みはずれたサイズの犬歯が顔をのけぞらせるのだ。不敵といえば不敵、ある種の人間には、そうするだけで神経を逆なでし、宣戦布告と同義になる、そんな笑いだ。  月齢が満ちるほど、俺の体のダイナモは絶好調になり、カンも冴え渡る。どんなに”やつ”が逃げ回ったとしても、必ずそのお釜を掘ってやる。 ごああああああ・・!  雪嵐のすさまじい音は、いつしか俺には怪獣の咆哮のように聞こえてきた。  不思議な感覚だ。これは、尋常な寒気ではない。エドメガロポリスに巣食う怪獣なのだ。あるいはいかにタフな俺でも、雪山遭難者がかかるという妄想を見る状態になってきているのかもしれない。  そういえば、昔々、そんな寒冷怪獣が東京を席巻するって特撮TVドラマがあったな。  ”そんな大怪獣に徒手空拳の俺が勝てるのか”なんて考えたが、俺は頭を振って、そんな考えを振り払った。怪獣であろうと、あの特撮ならまだしも、生身の生き物であれば砲撃とか喰らえば無事で済むはずがないからだ。必ず殺す。”安心しろ、敵は大怪獣のような存在かもしれないが、所詮は生身なのだ!”俺は、俺に言い聞かせる。たとい、あのベアトリス王女のいうとおり、無限の大宇宙を股に駆ける連中の一人であろうとも、だ。その名を、”幻魔”という。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加