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水の流れる音がする…
音が止まってしばらくすると、ひんやりとした感触が俺の腹をくすぐる。
どうやら、濡れた布で腹を拭かれているようだ。
目を開けようとするが、瞼がくっついたように重くて開かない。
濡れた布の感触が離れてしばらくすると、また腹にひんやりと布が当てられた。
ゴシゴシと腹の表面を拭かれては離れ、を、何度が繰り返されている。
この家には俺しかいないはず…誰だ?
それに…俺は助かったのか?
あの男に与えられた傷は致命傷だった。
なぜ俺は生きている?
手を動かそうとするが、震えるだけで、全く力が入らない。
「あ、無理しないで下さい」
聞いたことのない声が、俺に向かって話し掛けたように聞こえた。
「死ぬ直前だったのを引っ張りましたから、かなり体に負担をかけたと思います。
まだ寝ていて下さい」
そう言った声の主は、俺の目に手を当てた。
人間の手にしてはひんやりとした感触がしたと思ったら、俺の意識は沈んでしまった。
…
…
…
いい匂いがする。
俺は腹が減っていることを自覚した。
目を開けると、俺は自分の部屋の寝床で寝ていて、いい匂いは台所から漂ってきているようだ。
起き上がろうとしたら、体が思うように動かないのに気付いた。
きちんと掛けられていた布団をはぎ、何とか腹と背中と腕に力を入れて起き上がる。
俺の上半身は裸だった。
腹に傷はない。
まさか、あの男が来たのは夢ではないだろう。
どうなっているんだ?
優秀な魔導師ならば、傷を治す魔法が使えると聞いたことがある。
魔法の力で治したのだろうか?
俺はどのくらい寝ていたのか?
立とうとして、足に力が入らずふらつく。
情けない…
こんな状態でまた襲われたら、本当におしまいだ。
台所から漂ってくる匂いといい、誰かが俺を救ってくれたことには間違いないのだろう。
この村では俺はまた新参者だし、馴染んできたとはいえ、心を許している友人はいないのだが。
村人の誰かが助けてくれたのならば、先に死体と血溜まりを掃除しておいて良かった。
ふらつきながら台所に向かって、そこに立っている人物を見たら、俺の心臓は跳ね上がった。
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