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人間よりも大きな、漆黒の鱗で覆われた力強い体躯。
がっしりと筋肉のついた腕と足の先には巨大な黒く鋭い爪。
鱗と同じ色をした、大きな皮膜のついた二枚の翼。
長い首とその先にある鋭い牙が並んだ大きな口。
そして、暴力的な肉体に反して理知的な光を放つ漆黒の瞳。
日の光を受けて輝く漆黒の鱗の艶やかな表面に触れたい。
その漆黒の瞳で俺だけを見て欲しい。
俺は初めて見た瞬間から、この竜に心を奪われてしまったのだ。
「ああ、お前は今日も美しいな」
体を寄せてくる漆黒の竜の首と頭を、俺はゆっくりと撫でる。
ひんやりとした鱗の感触が心地好い。
この気難しい性格の漆黒の竜は、今のところ俺にだけ、このように甘えた様子を見せてくれていた。
「なあ、そろそろ俺を選んでくれてもいいんじゃないのか?」
俺が尋ねると、漆黒の竜は困ったように首を傾げる。
「まだダメなのか…
いいさ、お前が納得してくれるまで、俺は待つからな」
そう言った俺に、漆黒の竜は頬擦りをしてきた。
「ああ、可愛いな…俺はお前の事が好きだ。
どうか俺を選んでくれよ」
懇願する俺を、漆黒の竜は優しい瞳で見つめていた。
その時の俺は、この竜と決別する日が来るとは、夢にも思っていなかったのだ。
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