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「これで全部だな」
「ああ」
「じゃあ、今回の代金だ」
「毎度~」
俺は、道具屋に納品した薬草の代金を受け取った。
この辺境の村で唯一栽培をしている俺の薬草は、わりといい値段がつく。
種類も多くしているからか、生活費を稼ぐ上では、贅沢さえしなければ十分な金額だ。
空になった大きな袋を手にして、俺は村の外れにある自宅へ向かう。
「ただいま」
自宅に到着し、誰もいない冷えた玄関に向かって何となく言葉を発してみると、キキッと小動物の鳴き声が聞こえてくる。
「お帰りって言ってくれてるのか?」
どの家庭にも必ず一匹はいる、手のひらの上に乗る位の大きさの火トカゲが、小さな籠の中から俺を見上げていた。
「お前は可愛いな」
籠の柵の隙間から指を入れて、火トカゲの首をくすぐると、嬉しそうに俺の指に身を委ねている。
魔法の発達しているこの国では、生活に関する全てに魔法が関わっていた。
ただ、調理などに利用する火を起こすのには、小さな火を吹くのが得意な火トカゲがよく使われている。
火トカゲは飼育も繁殖も容易で、よく人に慣れるし、害もないから、単純に火を起こすための用途で、貴族や平民などの階級を問わず、どの家庭でも飼われていることが多い。
餌も雑食で残飯でも何でも食べるから、自分で魔法を使って疲れるよりも、よほど効率がいいのだ。
そう、魔法は勉強すれば誰にでも使える技だが、小さな火を起こす程度の魔法でも体力の消耗が激しいことだけが欠点だった。
体力を減らさずに魔法を扱えるのは、一部の優秀な魔導師だけだ。
俺も一応魔法は一通り勉強していて使えるのだが、一般人の域を越えることもなく、体力の消耗が激しいから、出来るだけ使わないで生活するのがいいと思っている。
この火トカゲは、裏の薬草畑で死にかけているのを見つけてそのまま飼っているヤツだ。
火トカゲは大体全身が赤い色をしているのだが、コイツは腹が白くて背中が黄土色をしている変わり種だ。
最初はただのトカゲの死体だと思ったから、畑から退けようと思ってつついたら突然火を吹いたから拾った。
火トカゲを持っていない俺は、毎日火を起こすだけで相当の体力を消耗していたから、丁度良かった。
ただ、コイツは火トカゲのクセに、火を吹くのが壊滅的に下手くそだ。
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