拾い物が大物だった件

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ノロノロとバケツに水を入れて、床を流し、モップで拭き取る。 「こんなもんか」 きれいになったか床を確認しながら、俺は呟く。 突然、背中から胸にかけて、鋭い痛みが走った。 気配は感じなかったのに! 「おや、これで急所を避けるとは、やはりあなどれませんねぇ」 血に濡れた剣を持った男が、俺の背後に立っていた。 良く知っていた相手だ。 気の抜けた話し方をするが、恐ろしい男だった。 良く知っていた相手に間違いないが、俺の知っていた頃と比べて、風貌が変化していた。 人間の形をしているが、顔の上半分と手の甲が明るい緑色の鱗に覆われている。 ツンツンとした短い髪も、同じく明るい緑色だ。 両目は、縦長の虹彩の周囲を金と緑が混じり合う、不思議な色彩になっていた。 この男の髪は緑色ではなく黒だったし、もっと人間に近い姿をしていたはずだ。 目の前の姿は、俺の知っている竜の姿に近くなっている。 ということは… 「お前、契約の段階を進めたのか」 男と距離を取りながら尋ねると、男はニヤリと笑う。 その少し開いた口元からは、肉食獣のようなギザギザの鋭い歯並びと牙が見えた。 「私も皇帝陛下のような力が欲しいですからねぇ」 ペロリと唇を嘗める長い舌の先は二つに割れて、チロチロと動いている。 「今これ以上の契約は無理ですが、いずれ緑竜の力の全てを手に入れますよ。 貴方を殺したらボーナスとして契約を進めてもらえる約束なので」 「契約には相性がある。 その前に優しい緑竜がお前にそれ以上の力を与えるとは思えないがな」 「私の心配は結構。 緑竜は聞き分けのいい子になりましたよ。 皇帝陛下のお陰ですがね」 「相変わらず、力づくで縛りやがる…」 「ふふふ、それが皇帝陛下のやり方なのですよ。 貴方だってよくわかっているはず。 そろそろ自分の心配をした方がいいですよ」 次の瞬間には、男は俺の前に立ち、俺の腹に剣を突き刺していた。 「あ…く…そっ…」 「五人やられたのを見たから少し心配しましたが、何と、杞憂でしたね」 男が剣を抜くと、俺の腹から大量の血液が出て床に落ちた。 ヤバい…意識が遠退く… 「貴方、こんなに弱かったですか? いや、私が強くなったのでしょうねぇ? まあ、竜の力を得た私と何もない貴方では、結果はわかっていたことですがねぇ?」 ニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべて、男は俺の顔を覗き込んだ。
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