《第二章》蛇の蠢き
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《第二章》蛇の蠢き

 緩やかに意識が浮き上がり、それに合わせるように感覚もゆっくり戻ってきた。指先に触れたシーツの感触に違和感を抱いた歩は、その感触を確かめるようにわずかに指を動かした。更に足を動かしてみるが、ふだんのものとは明らかに触感が異なっている。  それに肩に触れている毛布の肌触りもいつも使っているものではなかった。マットレスの硬さも違っている。匂いだってそうだった。いつも使っている柔軟剤の匂いに似てはいるけれど、やはり違っている。歩はぼんやりと霞がかっている寝起きの頭で、昨夜の記憶を手繰り寄せた。しばらくそうしているうちに恋人と別れて住んでいた部屋を出たことを思い出し、瞼を閉じたまま憂鬱そうなため息を漏らす。 (そう言えば、あの家出たんだっけ……)  こんなところで現実を思い知るとは思いもしなかった。突然居場所を奪われてしまったような気がしたが、それを取り戻そうという気持ちは不思議と起こらない。  長女というものは、妹や弟が生まれるたび諦めなければならないことや、我慢しなくてはいけないことばかりが増えていく。そのせいで歩は、早いうちから「諦めること」を身に着けていた。