《第一章》闇の中から現れたもの
1/25

《第一章》闇の中から現れたもの

「まさか浮気が本気になっちゃうとはね……」  あゆむは、自嘲気味な笑みを浮かべた。カウンターの上に置いてあるスマホを見つめる目はすっかり涙で潤んでいる。猫のような魅力的な瞳を縁取る長いまつ毛は、その涙でしっとりと濡れていた。そしてふっくらとした魅力的な唇からは、後悔が滲んだため息ばかり漏れている。夜更けをとうに過ぎた薄暗いバーには、彼女しか客はいない。 (もう、ダメなのかな……)  ベージュのワンピースで包んだ体を、僅かにカウンターにもたれさせながら、歩は今日何度目かのため息をつく。すると思い出したくもない光景が浮かんできたので、ぎゅっと瞼を閉じた。まぶたの裏から完全に消えたあと、ゆっくりと瞼を開く。  酒が残っているグラスに手を伸ばし一気に酒を飲み干した。冷たい酒が口の中を通り過ぎ喉をすべり落ち、体温によって温められた洋酒の芳しい香りが鼻から抜けていく。その香りに酔いそうになりながらも、空になったグラスを勢いよく前に差し出した。 「お替わり頂戴、光さん」