割れたハートの行方

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割れたハートの行方

 今日は何の日だろう。  春の日差しを間近に臨み、それでも寒さの勢いが増してくる二月も中旬。聖ウァレンティヌスが殉教された日であるから、やっぱりキリスト教徒にとっては信心深い一日なのだろうか。しかしよもやするとそんなことは忘れられて久しいのかもしれない。  俺はかねがねこの日を戦争だと思っている。  チョコレートという武器を片手に、菓子メーカーとマスメディアを後ろ盾に狙った獲物を射止める。  追われる対象となった者は射られた矢につけられた空白の矢文、込められたメッセージを読解し、いかほどの重みがあるのかを想像する。しなければならない。そこから金銭的価値に置き換え、一ヶ月が経つ前に手頃な品物を見繕わなければならない。  しかし世には義理チョコなる代物も存在する。 「義理だから。どうってことないよ」  そんな婦女子のいかにも気にかけないふうを装った笑顔とともに渡されるチョコレート。それは額面の通りに受け取ってはいけない。     
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