37_夢、違えども-1

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 それは、今から約3週間前の出来事だった。  突如、世界各国に銀色の巨大な像が現れた。その数は確認されているだけで108体にも及び、それも同日・同時刻にすべて異なる形で出現したのだった。天に届きそうなほどの大きな像たちは、どれも見たことのない怪獣のような姿をしていた。  だが、像は動かない。町や山に静かにたたずむだけで、何も動きはなかった。  「あれは、新手の怪獣に違いない。動かないうちに壊そう。」  どこかの国が発言した。いくつかの国はそれに同意した。だが、日本を含む大半の国は反対した。  「怪獣ではなくヒーローの可能性もある。たとえ新手の怪獣だとしても、攻撃してこない以上、しばらくは様子を見るべきだ。」  しかし過激派の国々は聞く耳を持たなかった。そして、それぞれの領地を侵した怪獣像へと攻撃を開始した。  それが、像を起動させるスイッチとも知らずに──  ──  日本に現れた怪獣像は、国防省舎へと突き刺さるようにたたずんでいる。  周囲の景色も一変した。若者で賑わっていたセンター街は、家を失った者たちであふれ返り、地下シェルターは今や、富裕層しか入れないよう手製のバリケードで覆われていた。  連日の数えきれない戦闘の影響で、国防省もジェイドも機能を失っていた。  「すみません、飲料水の提供はお一人につき2本まででして……」  「うるさい!役立たずのジェイドが!偉そうにするんじゃない!」  負傷しながらも市民に飲料水を配る星崎は、疲れた顔でただただ頭を下げた。  今はどこの国もボロボロだった。ほとんどのライフラインは止まり、多くの人たちの生活が困難になった。ジェイド隊員たちは、戦闘時以外は人々の生活の手助けを行っていたが、最近は住民の不満のはけ口となっていた。  「星崎隊員、大丈夫か?」  「あ、ああ。すまないな遠藤隊員。少し、休ませてもらえるとありがたい……」  遠藤に労われながら、星崎は怒声の飛び交う飲料水配布ステーションから離脱した。そして、救護車両の陰にずるずると溶けるように腰をおろした。  見上げると、青空の中に浮き立つ銀の怪獣像が目に入った。  (……この星は、どうなってしまうのだろうな。)  悲劇の始まりは、ある国の防衛組織が怪獣像を攻撃した瞬間からだった。一体の像が攻撃を受けると、各国の像すべてが起動した。
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