3_正義と悪と怪獣画家-3【観察眼アイホール】

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 「……佐久間、だいぶ熱に浮かされているようだ。」  入江は一度振り払われた腕を再び佐久間の背後に回し、無理やり担架に乗せた。  「ち、違うんです……僕、本当に……」  「クロム、お前がそこまで思い詰めてるだなんて……気が付かなくてすまん。」  こうして佐久間は、ジェイド本部の医務室へと運ばれていった。  ──  帰宅した佐久間は、空になった図面ケースを床に放り、真新しい布団へと寝転がった。  「あ、ふかふか。」  「そうでしょ~!前のはカビてたから、新しいの買ってきたよ~」  可愛らしいエプロンを身につけたモコは、尻尾を左右に振りながら夕食を作っていた。  「……布団やエプロンの資金源は?まさか葉っぱのお金か?」  「ううん、ちゃんとクロム君のカード使った~」  モコは悪びれることなく、ポケットから佐久間名義のクレジットカードを取り出した。  「わたしはクロム君の意思から生まれてるから、暗証番号もへそくりのありかも知っているのです!えっへん!」  獣耳をピンと立てながら胸を張るモコを見ていると、責める気は削がれた。いや、元から責めるつもりもない。自分が望んでいたように家事を行い、来客対応もこなし、愛嬌もある彼女に、非の打ち所はなかった。  佐久間は部屋着に着替えると、何気なくテレビをつけた。  「本日出現した虎眼竜タイガーロンは、手強い怪獣でしたね。」  「ええ。太陽がないと戦えない天機の弱点をついた、頭脳派の怪獣と言っても良いでしょう。しかし我々のヒーローは、天機だけではありませんからね。本日は、五行を操る巫女、瑠璃姫のおかげで、日本の平和が守られました。」  テレビを見ていると、モコがふらふらと危なっかしく夕食を運んできた。  「手伝おうか。」  「わーい♪じゃあクロム君はカトラリーを準備してください!」  佐久間は箸やフォークを準備しながら、モコを観察する。自分が望んで生みだした存在だからか、一緒にいても何の違和感もなかった。昨日までこの部屋にいなかったはずの“彼女”の存在を、自然と受け入れている自分がいた。  「モコ、君はこれからも僕の家に住み続けるのか?」  お茶の入ったグラスを運ぶモコの尾が揺れる。  「うん。クロム君がわたしを必要としなくなるまで、わたしはクロム君のそばにいるよ?」
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