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だが天機は物ともせず、怪獣の背中へ剣を突き立てた。
怪獣が断末魔をあげて発火した。そして小規模な爆発を起こした末、粉々に砕け散った。灰となった怪獣のかけらが太陽光を浴びてキラキラと霧散していく。
それを見届けた天機は、来た時と同じように光の中へと消えていった。
町から歓声が沸き起こる。天機のおかげで、今日も日本の平和は守られた。ジェイド隊員たちも、去りゆく天機へ手を振りながら、互いの健闘をたたえあったのだった。
──
「やっぱりすごいなあ、天機は。」
彼らの戦いの一部始終を、対戦闘用シェルターの窓から眺める青年がいた。
青年は片手に持った筆の柄で頭を掻くと、目の前のキャンバスへ最後の仕上げを施す。完成したのは、先程の怪獣を描いた絵画だった。
「うん、今日も良い出来だ。」
絵画は細部までしっかりと描かれており、今にも動き出しそうなほど精巧だった。
青年は完成した絵画を旧式のスキャナーにセットし、手慣れた様子で複製する。複製した絵画を手早く丸め、流れるような動作で筒状の図面ケースへと収納すると、さっと背負い上げる。
乱雑に置かれた画材を蹴散らしながらシェルターを出た青年は、軒下に停めてある大型のバイクにまたがり、派手なヘルメットをかぶる。そして勢いよくエンジンをふかしながら、制限速度ギリギリの猛スピードで道路を滑走していった。
程なく到着したのは、ジェイドの本部だった。
タマゴのようなドーム型の建物は、見た目こそ近未来の美術館のようだが、中身は最新鋭の技術が結集された軍事施設だ。そのためセキュリティーは非常に厳しい。一般人の立ち入りは固く禁じられており、出入り口には屈強そうな警備員が立っていた。
エントランスへ向かった青年も、あたりまえのように警備員に捕まった。
「ここは関係者以外の立ち入りが禁じられています。お引き取りください。」
「あ、スミマセン。僕、関係者です。」
青年は慌ててポケットから許可証を取り出し、首にかけた。
「怪獣画家の佐久間黒霧……?」
警備員は佐久間の顔と許可証を交互に見比べた。
許可証は本物のようだが、顔料にまみれた服や聞いたことのない肩書からは、怪しいニオイしかしない。そのとき、警備員の後方から声が響いた。
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