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星崎は、ジェイド第一班事務室の扉に備え付けられたロックを解除し、入室する。
事務室には、すでに隊長の入江がいた。淹れたてのコーヒーを飲みながら、いくつかの新聞を読み比べている。
「おはようございます入江隊長。相変わらずお早いご出社ですね。」
「ああ、おはよう星崎。すべての新聞に目を通すのが日課だからな。ん?お前が雑誌を買ってくるなんて珍しいな。」
星崎は週刊誌を片手に、自身の席に座った。
「ええまあ。今週号の特集にはクロムが載ってるみたいなので。」
そのとき扉が開いた。髪を結わえながら入室してきたのは鳴海だった。
「おはようございます。あ、それ週刊ニッケルですよね!私も朝、ウェブサイトで読みましたよ~画家特集。」
「ほほう。どれ、俺にも見せてくれないか。」
今週の週刊ニッケル巻頭特集は「あの絵は誰だ!ヒーロー・怪獣画家特集!」と題してあった。しかし、着席した鳴海は、複雑な笑みを浮かべている。
「でもヒーロー画に比べると、怪獣画は人気が低いみたいで。佐久間君はそこそこ大きく取り上げられてましたけど、ページは少なめなんですよね。」
「どう転んでも、怪獣は“敵”だからなあ。」
紹介されている怪獣画家のトップバッターが、「鬼才の新星画家」と銘打たれた佐久間だった。報道で使用する解説画や図鑑に載る怪獣画のほとんどを担当していることのほか、作画の速さや精密さ・躍動感は群を抜いて優れている、と書かれている。
「鬼才……惜しいなあ。」
「なんだ星崎、もっと良いキャッチコピーがあるのか?」
星崎は腕を組み、懐かしそうに目を細めた。
「ええ。クロムは訓練生時代から趣味で怪獣画を描いていたんですが、描画中の気迫がそれはもう凄まじくて。だから皆、こう呼んでいましたよ、“画狂のクロム”って。本人に気迫を出してる自覚は無いみたいなんですけどね。」
「へえ、さすが佐久間君!怪獣画を描いているところ、一度見てみたいわ~」
特集を読み終わる頃には他の隊員も入室を終えていた。そして、今日も日本の平和を守るため、ジェイドの活動が幕を開けたのだった。
──
「お前が、佐久間黒霧か。」
突然話しかけられた佐久間は、驚きに身をすくめた。振り返ると、そこには、大柄な男が自分を見下ろすように仁王立ちしていた。
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