1_正義と悪と怪獣画家-1【鋼鉄獣スチルリザード】

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 「クロム!早かったじゃないか!」  声の主は、建物の奥から走ってきた男だった。男は絆創膏まみれの顔でにっと笑み、ところどころ破れた赤いジャンパーを羽織り直した。  「スバル!」  佐久間は警備員の背後から、男に向かって手を振った。親密そうな2人の様子に、警備員は慌てて敬礼した。  「星崎隊員!彼は星崎隊員のお知り合いでしたか。」  「ああ、古い友人であり、仕事仲間さ。君は新人警備員か。ならば彼を知らないのも無理はないな。」  ジェイド第一班隊員の星崎昴は、佐久間の肩を引き寄せ、爽やかに笑う。  「彼は怪獣画家の佐久間黒霧。原則撮影が禁じられている戦闘において怪獣の姿を鮮明に描画してくれる、俺たちの大切な仲間だ。」  佐久間は照れくさそうに頭を掻き、小さく会釈した。警備員はより一層姿勢をただす。  「失礼いたしました。佐久間様、ご無礼をお許しください。」  「いやいや、僕がこんな身なりしてるから……えっと、今後ともよろしく。」  そして佐久間と星崎は、建物の奥へと向かっていった。  ──  2人は、本部の最奥にほど近い、第一班の隊員たちが常駐する事務室へやって来る。  「おお佐久間!今日のが出来たか!」  「お世話になります、入江隊長。皆さんも、本日の戦闘お疲れ様でした。」  事務室の扉をくぐると、隊長の入江が清々しい笑顔で出迎えてくれた。他の隊員たちも、にこやかに佐久間を歓迎する。  「佐久間君もお疲れ様。私、佐久間君の怪獣画をいつも楽しみにしてるのよ。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」  「ありがとう鳴海隊員。えっと、薄めのアールグレイで。」  佐久間は隊員に図面ケースを渡すと、いつものように応接用の椅子に腰を掛けた。  隊員たちが常駐するこの事務室は、事務室とは名ばかりの研究室のような場所だ。巨大なモニターには町中に設置されたカメラの映像が24時間映し出されており、何かあればすぐに対応できるような体制が整えられていた。さらに、事務室内の一角には、倒した怪獣の体の一部が保管されているなど、重要機密だらけの部屋であった。  (そんな部屋に入れてもらえるだけでも、すごいことだよなあ……)  改めて部屋を眺めながら、佐久間は小さくため息をついた。  「住む世界が違うよなあ……」  すると、入江が佐久間の背中を力強く叩いた。
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