1.新しい日々を生きてみる

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部屋は3階にある。両隣の住人とは、こうしてよく食事を共にする。今日も共に食事をするために、出かけたわけだが。 「おや、おはよう。またみんなでご飯かい?」 下へ降りてマンションから出ようとすると、マンションの入り口に見知った人物がいて、こちらに気づくとそう声をかけてきた。 背は伊佐緒よりも低い、やけに年寄り染みた話し方をする女性だ。年は俺よりも少し上くらいだったか。よく通る声の、美人とはこういう人のことを言うのかというほどの、綺麗な顔をした、このマンションの管理人。 「おはようございます。これから買い出しですよ。冷蔵庫に何もなかったもんで」 「ほう。いいなあ。わしも入れてくれんかのお」 足音も立てずに、すっと近づいてきて、さらには上目遣いときた。 この人のお願いを断れる奴なんているのだろうかと思うくらい、くそ、可愛い。 「どうぞどうぞ。いつものスーパーですけど、買い出しには来ますか?」 「うん。すまんなあ。さ、行こう行こう」 玄関の掃き掃除をしていたのだろう、持っていた箒を近くの壁に立てかけて、ぎゅっと左腕に抱き着いてくる。 年上のはずなのに、小さいせいか、仕草が幼いせいか、可愛くて仕方ない。構ってくれとでも言うような目にも、いつも負けてしまうのは仕方ないと思う。 「今日はハンバーグがいい!」 右腕には、伊佐緒が負けじと抱き着いてくるものだから、リュックで良かったと思った。こっちにも、可愛い弟みたいなのがいたな。 「野菜はトマトが欲しいです」 後ろには、穏やかに微笑んでいるイケメンがいる。 このマンション、というか、俺の周りにはどうしてこう、注目されるような奴ばかり集まるんだとふと思った。 このマンションに来るまでは、友達と呼べるような、信用できる奴はそうそういなかった。そもそも、浅く、狭くという付き合い方が俺のモットーでもある。 そんな俺に、このマンションの奴らはいつからか、懐くようになって。たまたま隣の部屋だったから、とか、そういうのもあったんだろうか。いやでも、懐きすぎだろとたまに思う。 俺は、こんな奴なのに。 俺に近づいてくるたびに、怖くなる。 俺のことを知りたいと言われたらどうしよう。俺は、俺のことを話せない。誰にも。 だから、頼むから、こんな幸せを簡単に俺なんかに与えないでくれ。 愛してるよ、なんて笑ったあの顔を、思い出してしまうから。
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