第1章 平成vamp

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 ダリオ・シルバが活躍したのは、2000年代に入ってからではなかったか。僕はサッカーを観るのは好きで、尚且つサッカー雑誌に掲載されている選手の写真が大好きだった。こんな写真を撮ってみたいと思ったのが、たぶん、カメラを始めたなんとなくの動機だった。だから多少そのあたりの知識はある。  確か交通事故で片足を失くし、義足でサッカーを続けたという話はサッカーファンの間では有名な話である。  なんだろう。  だんだん目の前にいる吸血鬼がいい人に見えてきた。  いや、そんなはずはない。  化け物は、所詮化け物だ。  そして僕はその化け物の傀儡にさせられたのだ。  決して心を許してはいけない。 「芝さん、つまり僕のカメラを使って片っ端からビルの屋上を覗いて、パツキンの美女を探せということですか」 「簡単な仕事だ。それで命が助かるんだ。しかも失敗しても何のお咎めもない」 「でも、僕は人間に戻れない」 「ああ、だから人間に戻りたければ、頑張れと言っている」 「保証はあるんですか。確か吸血鬼の眷属になった人間を元に戻すには――」  僕はそこから先の話を口に出せなかった。 「細かい事情は話せない。俺はカーミラを見つけ、ある決着をつけるつもりだ。それを為すことができれば、お前は人間に戻れると言っている」  つまり僕は、芝を吸血鬼にした西洋の女吸血鬼を捜し出さない限り、芝の――ダリオの眷属のまま、一生過ごさなければならないということになる。  なぜそんなことになったのか。  僕はやっと理解をした。  僕は見てしまったのだ。  ダリオは何年も待っていたのだ。  東京に雪が降るのを――前回は4年前だ。  どういうわけか知らないが、姿を消したカーミラを探すために。  これが僕の間の悪さということなのか。  僕は滝川凛に思いを伝えられないで、もんもんとしていたところに雪が降ると知って、気を紛らそうとして、ここに来ただけじゃないか。  それの何が悪いというのだ。  それもただの片恋だ。勝手に惚れて、犯罪者扱いされて、言い訳もできずに、フラれたと決めつけて、傷ついた心を癒そうとしただけじゃないか。  こんなことなら、ちゃんと告白を、いや、あの時撮った写真を見せておけばよかった――そうすれば。  僕はそこで、ある可能性について気が付いた  それはもう、僕が人間であることを止めることで得られる可能性。  彼女を”自分のものにできるかもしれない”という誘惑だった。
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