第2章 吸血鬼カーミラ

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 カーミラ  ”『カーミラ』 (Carmilla) は、アイルランド人作家ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュが1872年に著した怪奇小説、およびその作中に登場する女吸血鬼の名前である。”  ダリオはあんな風に言っていたが、依頼を受けた以上、最善はつくしたい。  もちろん人間に戻りたいがためと言うこともあるけれど、それ以上に僕は怒っていた――自分に対してである。  ネットでカーミラを検索すると、すぐに詳細な物語のあらすじを読むことができた。それでわかった需要なことがある。ひとつにはダリオが探せと言っているカーミラは物語の中で退治され灰になっていること。つまり僕が探しているカーミラは、伝説の吸血鬼とは別人である可能性がある。  そしてそのカーミラという名前も偽名であることがわかった。  ”吸血鬼は元の身分に縛られている。伝説の吸血鬼カーミラの生前の名はマーカラ (Mircalla) であり、吸血鬼として復活して最初に名乗ったのはミラーカ (Millarca) 、物語の主人公ローラの前ではカーミラ (Carmilla) と名乗り、全て本名のアナグラムになっている。”  つまり芝大吾が”ダリオ”になったことと似ているといえば似ている――だとしたらカーミラも偽名であり、アナグラムであり、伝説の吸血鬼の名を借りた似た名前の別人である可能性が高い。  時刻は午前11時――普通なら寒さで凍えるところだがなるほど吸血鬼の眷属ともなると熱さ寒さは関係ないのか。いや、もし太陽の光をまともに浴びたら無事では済まないのだろう。  雲の熱い冬の雪の日だけ、昼間に出歩くことができる……神の理に逆らう存在であるヴァンパイアももともとは日の当たるところで暮らしていた人間である。  北欧の人がわずかな期間しかない日光浴を裸になって楽しむというのとは違うのだろうけれど、僕は僕なりに吸血鬼の矜持みたいなものを垣間見たような気がした。  どうせ、僕は犯罪者なのだから。  滝川凛の言葉は、まるで杭のように僕の胸に突き刺さったままだ。いや、雪女ならつららだろうか。  ”ごめんなさい”  僕は犯罪者であることを認めてしまった盗撮の容疑者。  ならば、それらしく生きるのも……
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