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「ああもう、まいったな」
そんな凱の呟きを、バラのレリーフの入った花瓶を磨いている怜也(れんや)の耳は敏く拾った。
「何が参ったんだぃ?」
「何でもねぇよ」
「僕で力になれるのなら……」
「や、お前も無理」
全部言い終わる前に『無理』と断定されてしまった怜也は、少しむきになったようだ。唇をとがらせ重ねてきた。
「無理かどうかは聞いてみなきゃ解からないよ」
そんな彼を諦めさせるため、凱は抱えた難問を打ち明けた。
「今回担当の原稿、テーマが『夫婦』なんだよ」
「原稿?」
凱に依頼のあった原稿は、会社内で配布されるミニコミ誌のものだった。コラム欄に載せる原稿を、とお願いされたものだが、いかんせん彼にはテーマが合わなかった。
「夫婦について書け、って言われてもよぅ。未婚の俺に何を書け、と?」
情人、とか、愛人、とかならスラスラ書けるんだが、とニヤける凱。そんな彼に、怜也は突拍子もない提案をしてきた。
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