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征子さんは、美人だ。
十七で秋田から東京に出てくると、ミニスカートにハイヒール、夏は浜辺でブラを外し、体をこんがり焼いたという。
今もスレンダーで、贅肉があまりない。その代わり、頬のシミが少し目立つけど。
私は、ヘアスタイルで流行を取り入れるタイプだった。
マッシュルームカットにしていた、と話すと、細面の征子さんは、
「いいなあ、私、憧れだったのよ」
と羨ましそうだった。
おしゃれの好みが合って、お互い高血圧で塩分制限をしている。
ウォーキング中の話題に困ることはなかった。
三十分も歩くと、雪は本降りになってきた。
駅からも遠く、普段もそう人通りが多い道ではない住宅地である。
今夜は人の気配がほとんど消えていた。
朝からさんざん、不要不急の外出は控えてください、と報道されていたせいだろう。
(これは、必要な外出だもの)
私は、テレビもしくは雪の空に向かって、言い訳をする。
一日、一度。
自分以外の誰かと話す、貴重な時間。
けれど、
「前が見えにくいね」
「どうする、もう、帰る?」
いつの間にか、雪に目をこらし、私たちは無言になっていた。
「ううん、行きましょう。確か、あっちに曲がると商店街で、大判焼き屋さんがあったと思う」
征子さんに続いて、入ったことのない路地へ曲がる。今日みたいにしんしんと冷えた夜に、ほおばる大判焼きはきっとおいしいに違いない、と私はわくわくした。
自販機があれば、温かいお茶も、もちろん買おう。便利な世の中だ。
ポケットの中の小銭入れをチャリ、と握りしめる。お金を持ってきて正解だったわ。
息の白さを楽しみながら、細い路地を進んでいくと、大きな三叉路に出た。
「おかしいなあ」
征子さんが、首を傾げる。
「ここをまっすぐじゃない?」
なんとなく、直進に近い道を選ぶ。結局、商店街には出ず、ゆるやかな下り坂になり、その先にぽっかりと広い公園があった。
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