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「……何やってんのお前」
「ゆゆゆ、ゆう、ゆう、うひ、ひっ」
「おう」
彼女の顔が一気に青ざめ、覗き込んできた男から逃れるように地に伏した。
ここが公衆の面前だとか汚いだとか、そんな感情は今の彼女には一切ない。
ただ、雄陽(ゆうひ)くんに見られることが、何よりも恥ずかしい。
「おい、起きろよ」
「……嫌です」
「変に目立ってるけどいいのかよ」
「……そんなこと聞いたら余計に起きられません」
「もおおおおお前まじ」
頑なに地面に額を擦りつけていた彼女の身体が、ふわりと浮いた。
「よっこいせ」と呑気な声とともに逞しい腕が彼女をいとも簡単に抱え上げていた。
大きな手に抱えられていることを自覚し、彼女は盛大にのけぞる。
「――ぎっ、びやあああああ」
「あーうるさいうるさい」
「おおおおおおおろして、おろしてくださいゆうひくん」
「自分じゃ起きられないって言ったのお前だろー。それより周り見てみ?」
ほれほれ、と彼の促すままま視線をぐるりと移動させれば、好奇の目がいくつもならんでいた。
そのうえスマホのシャッター音までも聞こえてくる。
「ゆひ、ゆうひくん、これは」
「言ったろー目立ってるって」
向けられる視線をものともせず彼は「がっはっは」と豪快に笑って彼女をおろした。
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