3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ど……うで、しょうか」
「……まずい!」
にかっととびきりの笑顔で言った彼は、彼女の手から箱を奪い次々と食していく。
「ま、まずいって! まずいって言ったのに……!」
「おー。今年のはまたとびきりまずいから俺以外のやつにはやるなよ」
「……へ?」
「絶対。やるなよ」
ごちそーさん。と一瞬ですべてを食らってお行儀よく手を合わせて背を向けた雄陽の耳は、ほんのりと赤く染まっている。
だが、彼女はそんなことに気付かず高鳴る胸をおさえて頷く。
「雄陽くん」
「なに」
「今すごく幸せなのでこのまま一緒に死んでください……」
「俺も幸せだけど今死ぬのはやだな!」
がはは! と笑ったかと思えば強い力でぎゅっと手を握られる。
「一緒にじじいとばばあになったらな」
「ゆうひくん……!」
「さて、悪目立ちもいいとこだし帰るか」
「へ?」
じりじりと押し寄せてくる謎の焦りにゆっくり周りを見渡せば、先ほどと同じように多くの人に囲まれたままだった。
奇声を上げて固まってしまった彼女を慣れた手つきで横抱きにした雄陽は、帰路につく。
「早く好きって言えよ」
「……こんなに目立ちたがりのひとは嫌です」
「はーそんなとこも好きなくせによく言う」
「すっ……きとかそういうアレではないので早く家に帰してください」
「素直じゃねえの」
素直じゃないうえに根暗だし、地味だし可愛くないし。
欠点だらけだと俯く彼女に、雄陽はいつも豪快な笑顔を向けてくる。
お前が一番だと、何度も繰り返して。
そのたびに心がふわりと軽くなって、好きの気持ちが増えていく。
「ま、いいけどな。俺は気が長いから」
名前のとおり太陽のような彼は、いつも隣で彼女を見守っている。
いつか、彼女が自分の口で「好き」と言ってくれることを心待ちにして。
.
最初のコメントを投稿しよう!