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ふと、スマートフォンの着信音が鳴った。学生鞄の中で籠ったサウンドを鳴らす。電話は、鞄の最深部にまで潜り込んでいた。手を伸ばすが、届かない。面倒くさくなって全部ひっくり返した。
フローリングの床に投げ出された電話に霧島千尋の名前が出ていた。急いで電話に出ると、案の定の言葉が耳に飛び込んでくる。
「電話に出るのが遅いぞー。そーらーたっ」
少しだけ彼女の声の旋律が変わって聞こえた。
いつも一緒に帰って、そして帰ってから必ずのように電話がかかって来る。そして本当に当たり障りのない話をする。相手を呼び出し音三回以上待たせてはいけない。彼女が父から教わったビジネスマナーが、何故か僕に強要されていた。
「なに……、してたの?」
「なにってご飯食べてたけど」
「へぇー」
「それだけ?」
「そーらーたはつまんないなー」
「ええ?」
「この一年間で、ちっとも成長してないぞっ」
何が成長していないのか。電話に出るのが遅いことか。聞き返すと呆れられた。霧島さんはよく分からない。
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