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「どうしたんだ? そんな話して、何かあった?」
「……ねぇ、あのニュース見た?」
彼女は話題を切り替えた。あのニュースとは、人を疑ってしまう病気の話だ。聞いたときも不安になりながら、彼女が好きそうな話だなと思っていた。どうやら当たっていた。
「また、南極の氷床とか言うんだろ?」
「あー、今あたしのこと疑ったでしょー?」
「どういうことだよっ」
「ねぇ、今みたいなのが、あの病気の正体だったら拍子抜けだよね?」
「えっ……」
からかった彼女の言動が、人を疑う病気の正体。また彼女が言っていることが、よく分からなかった。
「病気は最初はなくて、そこには疑り深いひとりの人がいた。あまりにも疑り深いものだから、病気じゃないかーって。だから、その人に病人という役割を与えた。移らないように病人を遠ざけた。すると病人は孤独になって、孤独を与えた他人を疎んだ。看病している人がそれに同情した。そして、彼は病気じゃない。助けてやってくれと訴えた。それを聞いた他の人は、こう言った。彼が病気だということを疑っているのか、彼の病気が移ったんじゃないのかって」
「か、考えすぎだよ」
「もしかして、ちょっと怖かった?」
「そ、そんなわけないだろ」
言葉が唇の前で二の足を踏んだ。その不規則な頼りない足取りが彼女に読み取られたようだ。僕はどうやら隠し事は下手らしい。
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