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「本当にー?」
「き、霧島さんだって疑ってるじゃないか」
そう返すと、うまいうまいと笑った。なんだか少し不機嫌になった。
「あたしが怖いと思ったのは、そういうことなんだ」
「えっ……」
急に声が震えるものだから、少しまごついた。確かに僕も、恐怖を感じた。でも彼女のでっち上げた話が病気の正体だとしたら、最初からそんな病気などなかったことになる。
だったら何も怖くないじゃないか。ただの思い込みじゃないか。
「病は気からって言うだろ?」
「病は気からだからだよ」
そう彼女が言い返したところで、僕はハッとなった。
「疑うという感情は誰にでもあるし、疑われるのは誰だって嫌でしょ。誰も不安になりたくないし、不安にさせたくない。だから、あたし……あのニュースを聞いたとき不安になったの。今あるすべてが、壊れてしまったらどうしようって」
そのとき、彼女が感じていた不安を、別の形で自分も感じたことに気づいた。僕は、病原菌やウイルスがいて、それが自分に移ってサスペクトパシーにかかってしまったらどうしようと怯えた。でも彼女が怯えていたのは、病原菌やウイルスなんかじゃなかった。
「空太はそれを思ったことはないの?」
「えっ? でもそんなこと、思ったってどうしようもできないじゃないか」
「そうだよね。ごめん、ガラにもなく不安になっちゃって。ありがとう。空太の声聞いたら安心しちゃった。今日はいつもよりよく眠れそう」
彼女のその言葉を聞いて、どこかホッとした。こんなぶっきらぼうな返答で良かったのか。
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