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「じゃあ、また明日ね。おやすみなさい」
その言葉を互いに返して電話を切った。改めて考えてみる。
今あるすべてが壊れてしまったら。
僕はあの帰り道で、考えていたことの反対。
僕が感じた春の訪れを彼女は感じない。彼女の靴や服に桜の雪は降らない。汗ばんで、雨が多くなって、制服の袖やスカートの丈が短くなった。青々とした木々がやがて色づいて全て落ちて枯れた。白い霜が降りて。僕は同じ家路を同じ靴音で歩いている。音はひとり分。僕の背丈が彼女を追い越したとき、彼女はもうそこにいない。
僕らはもう、同じことを繰り返せない。
そう呟いたとき、静寂を大きな物音が切り裂いた。壁掛け時計が落ちて、文字盤のガラスが砕け散った。時刻は七時半を指していた。
その夜、僕はあまり眠れなかった。
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